パニック障害|代表的な病気
- >
- パニック障害
データ
パニック障害は、「不安障害」(不安を主症状とする神経症のグループ)の代表的な疾患です。不安障害全体の生涯有病率は9.2%、そのうちパニック障害は0.8%です。かつては心理的要因が主な原因であると考えられてきましたが、今日では、心因だけでなく脳内の神経伝達物質の代謝異常が関係しているとする説が有力です。
症状
パニック発作
動悸、発汗、胸痛、窒息感、めまい、フラツキなどのさまざまな身体的な不安兆候、死の恐怖、コントロール喪失の不安などが、突然、発作的に襲ってきます。これを「パニック発作」といいます。予期しないパニック発作が必須症状です。
「予期不安」
患者さんは「心臓発作ではないか?死ぬのではないか?」という強烈な不安に襲われ、救急車で病院へかけつけますが、病院に着いた頃にはおさまっていて、「異常なし」と言われるパターンが多いようです。そのまま帰宅すると、数日をおかずまた発作がおこる…という事を繰り返すのです。
その内、先回りして発作の再発を心配し、そのこと自体が不安を呼び寄せる(予期不安)、という悪循環がおこります。
「広場恐怖」
さらにパニック発作が起きた時、「逃れられない」と感じるような場所、たとえば電車や飛行機、エレベーターなどに乗れなくなったり、歯医者、美容院に行けない、という回避症状がでてきます。この症状を「広場恐怖」といいます。「広場」というより、行動の自由が束縛される状況を恐れる、というふうに考えればよいでしょう。
こうして活動範囲が制約され、「いろいろなことができなくなる」ことで自信を喪失し、うつ病、気分変調症へと進展することもあります(一生のうち、うつ病が合併する確率は50〜65%です)。他の不安障害、社交恐怖、恐怖症などとの併存も起こりますので、病状が進む前、早めの受診を心がけてください。
治療
急性期の治療目標は、パニック発作やそのほかの不安症状をできるだけ早く軽減させることです。そのためにSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と抗不安薬を中心とした薬を使用します。それでも広場恐怖症状がなかなか軽減しない場合、認知行動療法などを併用します。パニック障害は再発しやすい病気のため、症状が良くなっても薬はすぐにやめず、半年から1年くらいそのまま続け、以後、漸減してゆきます。
認知行動療法
予期不安にとらわれ、回避行動を続けることは、不安を長引かせることになります。外的なストレス、内的な不安との「付き合い」方、不快刺激に「慣れる」方法について、認知行動療法的アプローチが有効です。
「段階的曝露療法」や「認知の歪みの修正」などがあります。
自分を不安にさせる思考(たとえば、最悪の事態を予測して、自分で不安のスイッチを入れてしまうクセ、など)に気づき、それを修正するやり方を学習します。
精神分析的精神療法、あるいは力動的カウンセリング
最近の精神医学の流行として、「脳の機能的障害が原因」という説が優勢で、心理的な理解は疎かになっています。しかしパニック発作を経験した方が「自分の存在に対しての不安感や自信がなくなるような体験をした時に、症状がひどくなる」と打ち明けています。心理的葛藤の影響が強い場合は、この種の精神療法が有効です
「こじらせない」ポイント
発作になったらどう対処するか、決めてしまうことも良いかもしれません。
- 「これはいつもの不安のせいだ、時間がたてば自然に治まる」、そう自分に言い聞かせる。
- 安全だと感じられる場所、リラックスできる場所に移り、楽な体勢で(座ったり横になり)収まるまで待つ。
- ゆっくりと息をすったり吐いたりして 自分の呼吸が正常にできている事を確認する。自分の脈にふれ、「体は何ともない」と言い聞かせる。(日頃から腹式呼吸、筋弛緩などによるリラクゼーション法、ヨガや自律訓練を練習しておくのも有効です)
- 以上を試しても10分以上、不安が収まらない時は、医師からもらっている不安時薬をのむ。
不安発作に襲われると「どうしよう、どうしよう」と慌てますので、対処法を「決めてしまい」,発作を過剰に恐れないようにします。
「症状をなくす」ことにこだわると、治療はうまくいきません。「症状があってもそれをコントロールしながら、活動範囲を狭めないで、仕事や日常を維持しようとする」ことが,大事なポイントです。アルコールには依存しない方が安全です。
「不安やストレスのない生活」を求めると、行き詰まります。医師と相談しながら、病気の理解をふかめ、ストレスとの付き合い方を考えます(一般外来でも簡便型の認知療法を,われわれ臨床医はおこなっています)。こうして病気の「トンネルから抜ける」のを待つのが良いでしょう。